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vol.21「たった1人いるだけで」

 昼過ぎにホテルを出発。相馬市へと向かう。


 相馬市、という街と付き合うようになって4年になる。
 それまでは1度も訪れた事のないこの街に頻繁に通うようになったのは「彦ちゃん」という1人のCDショップ経営者がその街に住んでいたから、である。


 4年前の5月、それまでは宮城県仙台市付近と北海道のみで行っていたCD実演販売が、一気に日本全国に広がっていった。その会場となったのは多くがCDショップの店先で、もちろんマイクは無い。
 その頃の僕はといえば、半ば形骸化してしまった「CD実演販売」に少々辟易としつつも結局それ以上の効果的なプロモーション方法が見つからなかったし、「あの伝説の路上ライブをぜひうちの店で!」という声があがる事も無理はない、と思っていた。
それに、僕のようなやり方でCDを売っているアーティストを応援したいと言ってくれるショップに対しては、その店の音楽に対する良心や心意気のようなものを感じて個人的にもうれしかった。
 そうして僕はそんな日本中に散らばるCDショップを1日に3軒、4軒と回って路上ライブを続けたわけだ。北は北海道旭川、南は九州鹿児島まで。


 福島県相馬市、相馬駅前にある「モリタミュージック」もそんな店の中の1つだった。
 ただ、モリタミュージックが他の店と違っていたのは、店先でのライブの他にも数カ所、歌う場所を用意してくれていたことだった。そしてその用意してくれた場所というのがすごい。

・セブンイレブンの駐車場
・城跡の石垣の上
・某大手電機メーカーの工場の食堂(15分ずつ3回)

 …どうよ、これ。

 しかしまあ、その頃の僕にとってはそういった場所でのライブはそれほど珍しいものでもなかったので、いつものごとく「まあ、いいか」と歌いまくったわけだ。そして売りまくったわけだ、CDを。
 その日の夜、僕はこのモリタミュージックのオーナー、彦ちゃんがJIGGER'S SONを応援してくれていたことと、その人柄の魅力を知る。その打ち上げの席がとんでもなく盛り上がってしまって、そこにいる全員が連続して1回ずつ「天使達の歌」を歌うという「恐怖!『天使達の歌』8連発カラオケ」が決行されたことは今も忘れられない思い出だ。

 それから数ヶ月後。僕は食堂でライブをやった工場が主催する夏祭りにライブゲストとして呼ばれた。
その祭りはこのあたりでは最大の夏祭りで、1日の間に約1万人がその工場敷地内に集まってくるのだ。
 彦ちゃんの目論見は始めから僕をこの夏祭りに出演させることにあった。この前の食堂ライブは、いわばそのための面接のようなものだったのだ。
 この2年後にも再びこの夏祭りに呼ばれたのだが、工場で働く人達が「おかえりなさい!」と言ってくれたのはとてもうれしかった。


 と、以上のことからわかる通り、坂本サトルは相馬ではちょっとした人気者なのである。

 その「天使達の歌8連発」が繰り広げられた店で行われた今夜のライブ。チケットはあっという間に売り切れた。さあ、張り切っていくわよー。


 やはり昨日からなんか変だった声の調子は今日も回復せず、ベストな状態とは言えなかったが、それでも相馬の熱い観客に支えられて、この日のライブも無事に終わった。


 4年前まではどこにあるかさえよく知らなかった相馬という街での僕の知名度。
 それを作り上げた最も大きな要因となったのは彦ちゃんの存在なのだ。


 ラップランドを立ち上げる時に、僕と小林は彦ちゃんを株主として迎えた。
JIGGER'S SON の過去のアルバムを追加プレスするようにコロムビアに強く要請したのもこの人だ。
 時々ライブ会場で小林以上に大きな声でCDを売る人なつこい顔したおっちゃん。それが彦ちゃん。みんなも見かけたら一声よろしく。


 相馬の彦ちゃんのように、たった1人だけでも強力な応援者がいればこういったシーンを創り出すことは可能なのだ。
 そんな出会いがこれからもありますように!



【Sakamoto Satoru Tour 2003 PRIDE】

39本目@相馬アミューズメントゾーン101(福島県相馬市)

◆ 本日の動員:67名(累計2720名)
◆ 本日のプライド:2枚(累計459枚)
◆ 本日の打ち上げ:会場でそのまま
◆ 本日のお召し上がり:パスタ&ピザ
◆ 本日のご宿泊:相馬市内某ホテル



(日々の営み2003年5月24日分より)





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