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vol.08「今日をどこで区切れば…」

TD4日目。
結局2泊したホテルを昼にチェックアウトし、スタジオへ。

銀座にあるこのスタジオに通うのも今日が今年最後となる。
2曲が来年に持ち越しになったとはいえ、今日は今日でやらなければならないことが山ほどあるのだ。

いつもの通り、伊藤君がTDをやっている隣のブースにこもって、ボーカル録り、その他の作業を進めていく。
自分でエンジニアをやりながらボーカルを録っていく、というやり方は、僕にとってかなり効率が良く、この方法はこれからの活動において定着していきそうだ。
「いやあ、サトルさんが自分で録ってきたボーカル、ひょっとしたらうちのスタジオで録るよりもいい音で録れてるかもしれないですよ」と伊藤君からの評判も上々だ。


そして晩飯の時間が迫る頃、約束通り、ギターの山村君とドラムの矢吹君がスタジオにやって来た。さらに「忙しいだろうからまさかなあ…」と思いながら電話したサムエル今井までが「6時で仕事終わったんで、今からそっち行きます!」と急遽、遊びに来てくれることになったのだ。

実は今日、1曲ちょっと変わった曲を録ることにしていた。4,5人が適当に楽器を持ち寄って、歌も演奏も1発で同時にレコーディングする、というやり直しのきかない、いわゆる「一発録り」という方法で。}
人数が足りなかったらスタッフにも手伝ってもらえばいいか、ぐらいに考えていたのだが、まさかここで主だったレコーディング参加メンバーが勢揃いするとは!

さらに、11月に和歌山でイベントに出演した時に気に入ってしまって「今度レコーディング遊びにおいで」と誘っていた古藤 拓君という和歌山の大学生シンガーが自腹でほんとに遊びに来てくれたので、スタジオに入ってもらうことにした。

結局、僕の作業が終わったのが深夜0時をまわった頃。
それからようやくみんなの出番である。
山村君がギターを その他のメンバーはそこらへんにあった打楽器の中からそれぞれ好きなものを選んで、スタジオに入ってきた。

みんなには「山村君はアコギ、他のみんなは何か叩くもの」と伝えたのみ。
和歌山の古藤君など「君は灰皿叩いて」と言われ、灰皿の前に相当困った顔をして座っている。

どんな曲をやるのかは、彼らには全く教えていない。

というか譜面がないのだ。

というか、曲自体、まだできていないのだ!


僕は一体何をやろうとしているのか?



僕がラジオの仕事を始めたのはデビューする少し前からだったから、もう10年も前のことになる。それから10年間、ほぼ休むことなく何かしらのラジオのレギュラー番組というものをやらさせてもらった。
その中で、時々、即興でジングルを作ることがある。ジングルというのは番組のクッションになるような短い曲のことで、コーナー名や番組名をメロディにのせて歌ったりするのもその一種と考えてもらっていい。
AIR-Gの看板番組「GOIS」は今でもバンド時代に作ったジングルを使ってくれているし、同じくAIR-Gで現在放送中の「ウタノチカラ」のオープニング曲、ジングルも僕が作ったものだ。

で、そのジングルだが、その場でほとんど即興で作る。5分で3曲、とかね。それがまた火事場のバカヂカラと言おうか何と言おうか、自分でも思いがけない曲ができてしまうのだ。追いつめられて、忘れていた引き出しを開けてしまった、とでも言おうか。「ウタノバカヂカラ」ですな。



ここで話を戻す。

もうお分かりかと思うが、僕が今日、このスタジオで出したいのは、即興で曲を作った時に出るあのバカヂカラである。あの独特の興奮状態に自分の身を置いて曲を書いてみたいと思ったのだ。

もちろん、全く曲のアイディアがないわけではない。詞のコンセプト、オチ、コード進行のアイディアなどは頭の中にずっと前からあったのだが、うまくまとまらず外に出したことがなかったのだ。
それをこの極限状態の中で、一気に完成させたい。


とりあえず、みんなには配置についてもらって、伊藤君にマイクのセッティングなんかをしてもらってるその横で、詞と曲を書き出す…。


いやもう、まさに予感的中。出たよバカヂカラ!
なぜ、こんなフレーズが今まで出なかったのか?という歌詞があっという間に降りてきて、一気に詞と曲が完成した。
そのバカヂカラな曲のタイトルは「喧嘩しちゃいけません」という。


急いで歌詞と譜面を書いてコピーし、みんなに渡す。曲のムードと、いくつかの簡単な決めごとだけ伝えて、早速レコーディング開始!
細かいメロディが決まっていない箇所もあったので、計3回やって、1番良かったものをアルバムに収めることにした。
最高に愉快でいかした、そしてイカレたレコーディングだった。またこれでアルバムの奥行きがグンと増したはずだ。


深夜3時半、始発待ちの山村、古藤を残し、今井、矢吹が帰っていった。
それぞれ忙しいはずのメンバーが、たいして連絡も取りあっていなかったのに大事な日に全員集合する。
何だか運命的なものを感じてしまうなあ。


それにしてもこのアルバム、進行に若干の遅れがあるものの、投げる球投げる球、狙ったところにズバズバと決まっていくこの感じは何だ?「何だ?」ときかれても困るだろうが、とにかくストラックアウトなら200万楽勝にゲット!という感じだ。
このまま残りの2曲もいきますように。


みんなが帰った後も僕と伊藤君の作業は朝まで続き(なんと言っても今日中に例の2曲以外を完成させなければならない)、全て終わったのは朝7時。これからライブが連チャンで2本あるというのに。



伊藤君に「よいお年を!」と別れを告げ3日ぶりに家へ帰る。もう8時半だぜ!
1時間でもいい、とにかく眠りたい。

(2002年12月27日 日々の営みより)





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