●午後1時25分のシンガーソングライター
 
4年ぶりのオリジナルアルバム「1:25 PM」。楽しんでもらえているだろうか?
収録曲が出そろった頃、僕はこのアルバムの中に前作からの4年間にあった出来事を散りばめたいと考えるようになった。
 
古川さんとのLAYERがあり、浅森坂があり、多くの友人との交流が深まっていった4年間。
視覚に障害を持つ人々との出会い、自分で立ち上げたレーベル「ラップランド」との決別、ほんとうに1人きりで活動していくことになってしまったことへの不安と、同時に湧き上がる正体不明の爽快感。そして1人になったが故に再確認できた「僕は1人じゃない」ということ。
そう感じさせてくれた大きな存在の1つが、他でもない、今回参加してくれた友人達である。
彼らや素晴らしいミュージシャンが惜しみなく協力してくれたお陰で、このアルバムは僕にとっての4年間そのものとなった。
こんなアルバムが作れるなんて僕は何と幸福なのだろう。感謝してます。みんな、どうもありがとう!
 
さらに、その音や声を世界レベルの良質な音で録ってくれたエンジニアの佐藤くんにも賛辞と共に感謝の言葉を。仕事の早さと正確さとクオリティ、お見事でした。不眠不休でのミックス作業もお疲れ様でした。ありがとう!
そして、共同プロデューサーとして参加してくれたギタリストの石崎光くんには最大級の感謝を。僕が悩んだ時のアドバイスは的確で、いい歌が録れた時やいい歌詞が浮かんだ時には一緒に喜んでくれ、それは僕の大きな自信となった。
僕が鉛筆で書いた絵に、光くんが見事な色を塗ってくれたのだ。そのアレンジセンスと細部へのこだわりと超人的な体力には脱帽!天晴れ!お疲れ様!
 
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僕の場合、アルバムを作る時に、事前に「こんなアルバムを作ろう」という風に考えることはほとんどない。
何曲か曲が集まってきてようやく「ああ、僕は今こんな気分なのだ」と気がついて、そこで初めてアルバムの全体像がおぼろげに見えてくるのだ。
このアルバムのための本格的な曲作りは2009年、年が明けた頃から始まった。
この4年間に書いた曲のストックはあったが「新しい曲が書きたい」。そんな気分だった。
4月からは東北各地に1ヶ月単位で籠もりながら曲を書きためていったのだが、某スキーリゾート地の一室で「1日に例えるなら」と「何も知らなかったよ」が舞い降りた時、突然僕にはわかったのだ。「俺は今、ハッピーなアルバムを作りたいんだな」と。
そんな気持ちでこの4年間に書きためた歌詞を読んでみると、それはどれも今の気分からは遙かに遠いものだった。全部ボツ!今の気分で書き下ろすぞ!聴いてくれた人の中に光を灯すのだ。暖かく明るい光を。
 
僕は詩人には及ばず、作曲家にもなりきれない。年齢を重ねるにつれ広さと深さと複雑さを増していく様々な想いを僕は言葉だけでは言い表せず、メロディだけでは表現できないままでいる。
しかし「歌詞とメロディと声」が1つになったなら僕にも伝えられるものがあると確信している。僕が自分のことをシンガーソングライターと名乗る根拠はそこにあるのだ。
 
このアルバムを世に出す今の気分は清々しく、爽やかだ。
素晴らしい作品ができた。1人でも多くの人に届けたいと思う。

 
2009年11月  坂本サトル(午後1時25分)